この時期、由布院温泉は温泉の恵み、豊かな自然を満喫しようと多くの観光客でにぎわう。そんな中、健常者も車いす利用者も気軽に温泉を楽しめる完全バリアフリー設計の温泉があると聞き、湯布院町川上の「湯布院やわらぎの郷・やどや」を訪ねた。

 「やどや」は二〇〇三年四月にオープンした。ハートビル法(高齢者、身体障害者が円滑に利用できる特定建築物の建設促進に関する法律)に基づく、県内のホテル、旅館では初めての認定建築物。同年度には「おおいた・福祉のまちづくり賞(施設部門)」を受賞した。

 建物に入ると、館内がこまやかな気配りにあふれているのがよく分かる。手すりや点字ブロックはもちろん、廊下は「車いすで進みやすいように」とじゅうたんを敷かず、板張りにしている。ロビーのテーブルも車いす利用者が使いやすいように高さは四十五センチ。浴場のいすも「ひざが鋭角に曲がると、足の弱いお客さまは立ちづらい」との配慮から通常の二倍の高さになっている。

 総支配人の鈴本洋一さん(60)は「人と人との『和』が一番大切。健常者、障害者の垣根なく、人間同士のバリアを完全に取り除いている。ここに来れば誰もが自由に過ごしていただけると思いますよ」と話す。

 肝心の温泉は源泉掛け流しで、浴室の種類も豊富。内湯には男湯、女湯と家族風呂があり、車いすでも利用が可能だ。三つの露天風呂のうち、「やわらぎの湯」と「中の湯」は車いすで楽しむことができる。

 足が不自由でよく利用するという、別府市の近藤秀樹さんと妻鈴子さんは「入り口に段差もなく、脱衣所から露天風呂まで車いすで入れる温泉がある。障害者も含めてすべての人に優しいんですよね」と太鼓判。笑顔の絶えない近藤さん夫婦と温泉談議に花を咲かせながら、心地よい風が吹く露天風呂を楽しんだ。

 全国有数の温泉地だからこそ、さまざまな観光客を最大限のもてなしで迎える姿勢が必要。「やどや」の一歩進んだ取り組みに、湯の街・湯布院の魅力をあらためて感じた。


■メモ/町中心部の「湯の坪街道」沿いから歩いて5分ほど。泉質は単純温泉(弱アルカリ性)。効能は神経痛、筋肉痛、関節痛など。入浴利用は午前11時から午後3時まで。料金は内湯が500円、家族風呂は一室2000円(50分)。問い合わせはTEL0977・28・2828。

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